無礼者

写羅卵2

21/05/30 01:19

王道?な感じの、登場人物全員魅了する感じの主人公受け話を書こうと決意して書き始めたけどカップリング要素はない事件もの第二話。
ここまでは書けてるので、この後はまた出てくるのに長いことかかると思ってください。

 目の前にいる存在に、スティーブンは息を呑みそうになる。綺麗なだけの人間は山程見てきたというのに、彼だけは別格だと思わされてしまう。映像や画像で散々見ていたはずだが、それでも彼を直接見ると、あまりの美しさに圧倒される。
「私があなた方をここにお呼びした理由は、わかっていますね?」
 声も美しく、しかし、伸し掛かるような圧も感じる。応えなくてはと思うが、どうも口が開きづらい。そう思っていると、隣から声がする。
「いえ、皆目検討がつきませんが」
 クラウスが声を発したことで、スティーブンはなぜか少し息が楽になった。
「皆目? そんなことはあるまい。そもそも、私はあなた方を招待していますが」
「招待状は確かに届いていましたが、我々はあれを廃棄しています」
「まあ。人間にしては無欲な方々のようだ」
「貴殿の様子を見るに、招待状を廃棄したことについて問いただすために我々を拉致したというわけではないのでは」
 クラウスが訊ねると、彼は口を小さく開き、やがて口元を隠してくくくと笑い始めた。
「なかなか聡いようで。ふふ、その通り。招待状の破棄なんて、そんなのは想定の範囲内です。そうですね。聞きたいことは全部で三つ。あなたが今、なぜ招待状の破棄ではなく、廃棄と言ったのか。なぜ招待状の解析なんてしていたのか、そして、あなた方の事務所にいたあの青い影は誰なのか」
「招待状が解析されたと、なぜわかるのですか」
「聞いているのは朕だ。まずは問いに答えよ」
 声からかかるプレッシャーが一瞬酷くなる。しかし、先程のような「答えなくては」という焦燥は不思議と感じない。
「答えられることと答えられないことがあると言ったら?」
 スティーブンが声を出すと、彼はこちらに顔を向ける。
「おや? ……ああ、そうか」
 何か訝しんだ後、何かに納得したような声を出す。
「答えられぬとは、守秘義務とやらか?」
「心当たりのない質問がある」
「どれだ?」
「青い影とやらだ」
「そうか。ではそれは先二つの答えを聞いてから類推しよう。まず最初の問いだ。なぜ、招待状を廃棄と言った?」
「言葉の綾ですと言っても納得していただけないのでしょう」
「そうだな。では、……そうだな。お前達はあの招待状をなんだと思って、生ゴミに捨てたのだ」
「その前に聞いても? なぜ招待状が生ゴミに捨てられたとわかるんですか」
「問いに答えよ。と言いたいところだが、ここまでの頑迷な様子からして、そこを開示せねば素直に吐かぬのであろうな。なぜか朕のテンプテーションも段々効かぬようになっているし」
 テンプテーション、魅了とかそういったものをやはり使っていたようだ。
「では話してやろう。あの招待状は、ある程度どういう末路を辿ったか把握できるようになっている。大方は喜んで受け取るか、或いはそなたらのように破棄するかだな。しかし、何やら厳重な解析をした上で生ゴミとして廃棄したのはそなたらだけだ。なぜそうした?」
「それは」
 正直に言ってしまえば、レオナルドがあの招待状を卵と称したからだ。しかしそれを素直に言うわけにはいかない。何せあの招待状は、どんな解析をかけても『ただの紙の招待状』としか出て来なかったのだ。
「一人、我々に届けるとなるとただの招待状ではないのかと進言した者がいて」
 ごまかそうと口を開くが、彼はこちらを睨む。
「そうではないだろう。……ああ、そうか。あの青い影、やはりあの青い影だな。あれが、何か言ったのだろう」
「その、青い影というのは?」
「招待状に付与していたものを通してはそうとしか見えなかった。しかし、あなた方にはそうではないのだろう。だってあなた方とあの青い影は確かに会話をしていた」
 その言葉に、やはり『青い影』とはレオナルドのことだろうと推測できる。なぜ青い影に見えるのかはわからないが、いずれにせよレオナルドの姿が認識されていないのはありがたかった。
「青い影というのが何かはわかりかねる。しかし、我々はとある人物から、あの招待状が招待状ではなく、別のものに見えると進言された。それをもとに、我々は招待状について調査をし、その結果、招待状以外の何かであるという確証は得られなかった。それだけです」
「生ゴミとして処分したのは?」
「彼の言説を信じたため、そのままではなく、そちらで処分した方がいいだろうと判断したまでです」
 スティーブンが続けると、彼は少しの間動きを止め、やがてふうと息をついた。
「わかりました。ではきっとそうなのでしょう。ちなみに、その者は招待状が何に見えると?」
「卵です」
 クラウスが言ってしまった。直後、彼はにたりと笑う。
「そうですか。へえ。卵と?」
「ええ」
 クラウスが肯定する。それに対し、彼はしばしニヤニヤと笑っていたが、やがてそれを微笑みに変える。
「聞きたいことは聞き終わりました。帰ってくださって構いませんよ」
 直後、スティーブンはカフェのとある席に座っていた。驚いて顔を上げると、クラウスもいる。
「クラウス、今」
「ああ。スティーブン、我々は今、間違いなく、かのエガンナ王の前にいた」
「でも、僕ら、確かに、さっきまで外を歩いていた。それにこのカフェにも入ろうとしてない」
「一体何が」
「監視カメラでも調べてみるか。なんでか、すごいいっぱい食べてるみたいなこの状況も気になるし」
 目の前にあるテーブルの惨状、空の皿が山ほど置かれている状況を見つつ、スティーブンが提案すると、クラウスは頷き、そして二人で店を出た。

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