無礼者

カルダーラタランテーラ

21/10/30 08:13

ボス、結婚するってよ。という感じではない、結婚式は囮だ!な話。そしてまたオリキャラが増えました。
ところでこの話のために一生懸命スーツとかドレスとかナックルとかショットガンについて勉強しましたが、付け焼き刃にも程があるのでちょっと恥ずかしいです。

「そういえば、君のとこから十月はなるべく予定入れるなって釘刺されたんだけど、何かあるの?」
 ある日スティーブンが訊ねると、レオナルドはああと軽く頷く。
「結婚式挙げるんですよ。それの準備で忙しくなるからかと」
「へえ。君のとこの誰かが?」
「いえ、僕です」
「そう、君が」
 スティーブンは一度相槌を打ったものの、次の瞬間勢いよくレオナルドの方を見た。
「君が結婚!?」
「はい。ご近所のイタリアンマフィアの抗争の手伝いで、囮として結婚式挙げようって話に」
「ま、待った待った。情報量が多い。それ僕らに話して大丈夫なネタだよな?」
「一昨日くらいに、メイさんがスティーブンさんに協力してもらうって息巻いてたから、その内連絡来ると思いますよ」
「協力? 何の?」
「さあ。僕の護衛とか?」
「……まあ、ザップを置くわけにはいかないだろうからな」
「本当に護衛かどうかは知らないですよ。なんか無理なお願いだったら、断っても大丈夫ですから」
「話があればきちんと確認するさ。ところで、なんで結婚式?」
「シャーロン会の縄張りのご近所を縄張りにしてるイタリアンマフィアがいるんですけど、そこのボスが最近代替わりして、色々内部反発が強いから、先代から同盟組んでるシャーロン会のボスと結婚するってことにして、結婚式で反発勢力を一網打尽にするつもり、だそうです」
「君のとこの近所で、イタリアンマフィア、代替わり……。あ、カルダーラ?」
 思いついた名前をあげると、レオナルドは頷いた。
「そこのボスに頼まれて、結婚式を挙げることになったんです」
「君のとこの姉妹がよく許可したね」
「あー、なぜか許可出ましたね。というか、判断を僕に任せるって言われちゃって」
「着々とボスとして育てられてない?」
「ぐっ、いや、そんなことはないですきっと」
 しかしファミリー全体を巻き込みかねない話の決断を任されるとはそういうことではないだろうか。と思ったが、これでまたレオナルドが気に病み始めたらよくないかと、スティーブンは口を噤んだ。


 そういった話をした数日後。スティーブンはメイに呼び出され、久々にハオチーハオチーに向かうことになった。場所が場所なので、てっきりレオナルドも交えての話だと思っていたのだが、予想に反し、店に着くとメイしかいなかった。
「あれ、君だけ?」
「今日は別件で皆出ているからな」
「ということは、誰にも聞かせたくないってところか」
「ああ。その辺の店でやるわけにはいかんやつだ」
 そう言いながら、メイは奥の個室に入る。茶器が並んでいて、既に茶が注がれていた。
「珍しいね」
 席につきながら指摘すれば、メイは顔をしかめつつ頷いた。
「仮にも依頼する側だからな。必要最低限の礼節はな」
「依頼って、結婚式当日のボスの護衛とか?」
「その様子だと、ボスからある程度は聞いてるようだな」
「ご近所のイタリアンマフィアの抗争を手伝うってことと、それで結婚式挙げるって話くらいだよ」
「それで七割だな」
「七割なの」
「いや、六割かもしれん。まあ残りの四割はボスは知らんからな」
「そんな隠しておかないといけない情報が?」
「ああ。現在あちらのファミリーのボスはマウラという女なんだが、あの女、実はボスに惚れているらしい」
「……え」
「今回の騒動で、どさくさに紛れてボスに婚姻関連の書類にサインをさせようとしているという情報が入った」
「はあ」
「今回、お前に依頼したいのは、ボスの身辺警護と、それとは別に、あの女がボスに何かサインさせているようだったら、その紙を片っ端から回収しておいてほしいということだ」
「え、それが残りの四割って本気で言ってる?」
「他にも細々とあるんだが、お前に関係のある話はその部分だけだ」
「ああそう。というか、惚れてるって、恋愛的な意味合いで?」
「ああ。確か、ボスの前だと一人の人間なのだと思えるとか言ってたな」
 つまり、レオナルドの誰にでも分け隔てなくという特性にやられたタイプだろう。正直、マフィアという特殊な環境下ではレオナルドのような特性の人間は眩しすぎて、逆に人望を集めてしまいがちなのではないだろうかとスティーブンは密かに思っていたのだが、今回でより確信を得てしまった。
「我々としては、面倒極まりないから抗争の最中に死んでくれないかと思ってるんだが、まああの女ではな」
「君から見ても生き残りそうなタイプだと」
「お前のところのボスを女にした上で、性格だけがお前みたいな感じの女だ」
「……なんか引っかかるものがあるけど、まあ、生き残りそうなのはわかったよ。ところで、当日参加するのはいいとして、どういう名目で呼ぶんだい? 構成員とか? 流石にライブラの名前出されちゃ困るんだけど」
「丁度いい方便を用意しておく。まあ、近々連絡するから楽しみにしていろ」


 一ヶ月後。なぜか賓客として招待されたスティーブンがレオナルドに挨拶に行くと、彼はかなり驚いていた。それもそうだろう。なぜかスティーブンの隣にはクラウスまでいるのだ。
「えっ、なんでお二人が」
「私が招待状を出しておいた。ボスの晴れの舞台だからな」
「この後のことがあるのに呼んだんですか」
「この二人なら問題あるまい。ようこそ、ミスター」
「お招き感謝する。レオ、結婚おめでとう」
 クラウスが真面目に祝福しているのを見て、レオナルドは慌てて訂正を入れる。
「違うんですよ。今日のは囮で、本当に結婚するわけじゃないんです」
「そうなのかね」
「ああ、クラウス、僕も聞いてるよ。というか、君がいることの方が驚きというか」
「副官殿を呼んでおいて、ボスを呼ばないのはなしだろう」
 いけしゃあしゃあとメイがいうので、レオナルドはため息をついた。
「すみません、クラウスさん、スティーブンさん。えーと、スティーブンさんには話しましたけど、多分式の最中にカルダーラファミリーの内部抗争と、漁夫の利を狙ってやってくる他マフィアのドンパチが始まる予定なので、なんだったら帰ってもらっても」
「僕は護衛を頼まれてるから最後までいるよ」
「そういうことなら私も残ろう」
「あ、ありがとうございます」
「では、この後向こうと打ち合わせをする予定だから、ついてきてもらおう。肩書としては、レオンの数少ない親戚とその護衛として紹介する」
「え、親戚って、どちらを」
「そんなの決まっているだろう。勿論」


 打ち合わせに入った部屋には、既に白いドレスを身にまとった栗毛の女性が待っていた。そのフレーズだけなら本当にこれから結婚式の花嫁だと思えるのだが、顔の半分に火傷と思わしき傷痕があり、目もきりりと吊り上がっているのでだいぶ貫禄がある上、彼女の背後には強面の人類種や傷の多い異界人が並んでいて、とてもこれから結婚式を挙げるような雰囲気ではない。
「カルダーラさん、お待たせしました」
 レオナルドが声をかけると、彼女はふと目元を緩ませた。
「以前も言ったが、マウラでいいぞ、レオン」
「では、今日一日人前に出る時はそう呼ばせてもらいますね」
「ふ、つれないな。ところで、見ない顔が二人ほどいるな」
「こちらはボスの遠縁の親戚で、今日の話を聞いてわざわざ足を運んでくださいました」
 メイがそう言ってクラウスを紹介する。途端、カルダーラファミリーの面々がざわつく。
「おや、そちらの黒毛の色男が親戚ではないのか」
「よく間違えられますが、こちらの方が僕の親戚です」
「クラウスといいます。レオンよりお話は伺いました」
 事前に言われたとおりにクラウスが挨拶をすると、マウラは軽く頷いた。
「よろしく頼む。しかし本当に親戚を呼ぶとは。というか、そうか、貴殿のような者がいたから、レオンはああなのだろうな」
「彼の人徳は純粋に彼自身の性質によるものです」
「ふふ、そうか。図体からは疑わしいが、言動から感じるものは近しいものがあるな。あとで暇があればレオンの幼い頃など聞かせてもらいたいが」
「雑談は程々に。そろそろ時間も差し迫っていますので、作戦会議を始めても?」
 メイが苛立ちも隠さずにそういえば、マウラは肩をすくめる。
「仕方ないな。お楽しみは馬鹿共を片付けてからにしよう。事前の打ち合わせ通り、狙撃ポイントは潰してある。そっちは?」
 話題を切り替えた途端、マウラは入って来た時のような怜悧な表情になる。マウラの質問にレオナルドがちらりとリンを見ると、彼女はそれに笑みを返し、口を開く。
「ボスの指示を受け、こちらも気の早い第三勢力は事前に潰せるだけ潰してあります。肝心の襲撃時間は?」
「タイミングとしては三つ。一つ、私がヴァージンロードを歩ききった瞬間。二つ、誓約の瞬間。三つ、指輪を交換する瞬間。このいずれかで私がすきを見せた瞬間に突入するそうだ」
「ある程度調整できそうですね」
「そうだな。私としては誓約の瞬間あたりがいいかと思うが」
「ではそれでいきましょう。クラウス様もそのつもりで」
「ああ、承知した」
「そういえば、レオンの護衛はつけないのか? お前達姉妹は迎撃側につくと聞いたんだが。必要ならうちのものを貸すが」
「必要ありませんよ。僕が守りますから」
 スティーブンが口を挟むと、メイとリン二人にぎろりと睨まれた。そしてそれを見てか、マウラがにやりと笑う。
「護衛殿は姉妹に嫌われる程度には腕が立つようだな。であればお手並み拝見といこう」


 結婚式の会場となっている教会はかなり質素な造りで、よく見れば壁などにはヒビが入っている箇所もあった。聞けば近々取り壊し予定だとかで、建物の持ち主も抗争ついでに壊してくれれば費用が浮くと考えて会場を貸してくれたらしい。現在会場に詰めている参列者から発せられるピリピリとした空気を感じるに、期待通りのことになるだろう。
 そんな中、現在祭壇には神父役の男とマウラ、レオナルドがいる。後ろ姿だけを見ればまさにこれから結婚するカップルと言えるだろう。
 マウラ本人の身長とスタイルに合わせてか、細身の白いドレスで、長袖なので露出が少なく見えるが、肩口から肘あたりまでと腰から下の側面の随所はレースで編まれていて荘厳なドレスだ。マウラ本人の迫力もあってか、カルダーラファミリーの面々はその姿を見て女神だなんだと祈りを捧げていた。一方レオナルドは白いタキシードで、ショールカラーとタイはネイビーのもの、ジャケットは一見真っ白な生地だが、近くで見ると蔦のような模様が入っていた。最初に見た時はあの姉妹が選ぶにしては遊びが入っていると思ったが、それについてはマウラの趣味だとメイが忌々し気にこぼしていた。
 式は順調に進み、神父役の男が誓いの言葉を述べようとしたその時だった。
 背後からバンッと扉が勢いよく開く音が聞こえ、振り返るとショットガンやガトリング、アサルトライフルなどの銃を手に持った人類種や異界人が十数人並んでいた。
「マウラ! テメェにボスの座は似合わねえ。ここでくたばっちまいな!」
 一人がそう言ったかと思うと、マウラがブーケを投げ捨て、次いで銃声が響き、叫んでいた男が倒れた。
「くたばるのはあんたらの方さ」
 マウラの声が教会に響いたかと思うと、周囲の客がざっと立ち上がり、隠し持っていた銃火器や武器などを構える。スティーブンはクラウスと共にレオナルドのいる祭壇へ向かった。
「野郎ども、やっちまいな!」
 レオナルドの隣に立つマウラはどこから出したのか、ショットガンを更に撃つと、双方から雄たけびと銃声があがる。レオナルドのところにも銃弾がいくが、それはスティーブンが出した氷の壁で防がれた。
「あ、ありがとうございます」
「間に合ってよかったよ」
「護衛殿、なかなか面白い能力を持っているな。レオンのことは任せたぞ!」
 マウラはこちらをちらりと見てそう言うと、ドレスの裾から手斧を取り出し、右手にショットガン、左手に手斧というスタイルで乱闘に加わっていった。あのメイが評価するだけあって、次から次へと襲い来る者をショットガンと斧で薙ぎ払い、またどこからかナイフを取り出し、それを投げて味方の援護もしている。よく見れば左手にはナックルのようなものも装備しているが、あれはブーケで隠していたのだろうか。
「カルダーラファミリーのボスってそんな武闘派じゃなかったよな」
「あの人だけ特別らしいですよ。だから反発が起きてるって話もしてました」
「なるほどなあ」
 話していると流れ弾が飛んでくる。それはスティーブンの盾で防いだが、次いで人類種数人が吹っ飛んできた。刺して止めるかとも思ったが、その前にクラウスが殴ったりキャッチしたりしていた。
「いずれにせよ、ここでは危ない。避難しよう」
「そうだな。ちなみに、ここから帰るのはあり?」
「教会出るのは大丈夫です。ただ、近くで待機とは言われてます」
「オーケー。ひとまず教会からは出よう」
 視界の端でメイとリンがマウラに襲い掛かっていたような気がしたが、スティーブンは何も見ていないことにした。
「僕が道を作るから、その後ダッシュで。クラウスは彼を抱えといてくれ」
「心得た」
 そう言うと、クラウスはレオナルドを抱え上げた。
「え、僕自分で走りますよ」
「悪いけどこっちの方が早いと思うから。あとスーツに血しぶきとかついたらあの姉妹に文句言われそうだしさ。よし、やるぞ」
 壁から飛び出し、周囲に近付いてきていた恐らく敵対ファミリーと思しき者達を凍らせて足止めする。ついでに祭壇の上にあった書類を凍らせ、砕いた上で、近くの窓に向かって走り、窓ガラスを砕いて外に飛び出た。それにクラウスが続くのを気配で感じつつ、出たところで周囲を探ると、少し離れたところでも銃声が聞こえるのがわかる。
「どこの出入り口でもドンパチやってるっぽいな」
「様子見しましょうか?」
「人の気配がないところは頼もうかな。義眼見られると困るだろ」
「うっ、確かに」
「とりあえず銃声が控えめな方に向かってみよう。クラウス、それでいいよな」
「ああ」
「いたぞ!」
 声が聞こえ、そちらを向くと同時にクラウスが盾を出して銃弾を防ぐ。
「のんびりしてる暇はなさそうだな」
「行こう」


 数時間後、教会から少し離れたところで待っていると、礼服を血まみれにしたメイとリンがやってきた。
「ボス、お待たせしました」
「お疲れ様です。怪我とかはないですか?」
「帰ったら手当をすれば問題ない程度だ」
「私もそんな感じ。ボスも無事そうだね。うんうん、血しぶき一つ飛んでないね」
「ちっ、少しでもスーツに汚れがあったらケチつけようと思ったんだが」
「護衛殿は本当に腕がいいようだな」
 見ると、白ではなく赤黒いドレスをまとったマウラがいる。まず間違いなく、返り血などで染まったのだろう。ドレスの裾や袖も切り裂かれ、だいぶ肌の露出が増えている。更に抗争の間に装備したのか、タクティカルベストやホルスターなども身に着けているので、先程まで結婚式をしていたとは到底思えない格好になっていた。
「カルダーラさんもご無事でしたか」
「見ての通りだ。被害としては、抗争が終わったらレオンに結婚でも迫ろうかと用意していた書類がなくなったくらいか」
「はは、それはよかったって言っていいですかね。どこに置いていたんですか?」
「祭壇の上だ。あそこが一番安全かと思ったんだが、終わって確認したら粉々になっていた」
「そんなところに置く方が悪いのでは?」
 メイがにやにや笑いながら言う。一方スティーブンは、本当にあれだったのかと内心驚いていた。
「まあそうだな。いやいいんだ。あれはいくらでも用意できる代物だし。あと問題だったのは、どさくさに紛れてこちらを狙って来たそこの二人くらいか」
「首を狙える時に狙っておけと先代からの教えがありますので」
 リンがしれっと答えると、マウラは声をあげて笑う。
「はっはっは、まあそうか。レオンのせいで忘れがちだが、シャーロン会も立派なマフィアだ。寧ろ狙って来たのがお前達二人だけだったのが不思議だが。全員でかかってきてもよかったんじゃないか?」
「互いに潰し合って別の抗争になるのはボスの本意ではないので」
「そうなのか?」
 マウラがレオナルドの方を向く。それに対し、レオナルドは苦笑しながら頷いた。
「派手に争うと損害も出ますし。というか、僕は一応止めたんですけど」
「それなのにこれか」
「人望がないんですかね」
「人望があるからこそ、天下を取らせたいと思う舎弟心からなんだが」
 メイの言葉にレオナルドは顔をしかめる。
「こんな感じでして」
「なるほどなあ。手綱を引ききれてないのか」
「そうかもしれないですね。まあ、僕マフィアのボスとか向いてないんで仕方ないですよ。殺されてないだけ御の字というか」
「ではどうだろう。私の夫になるというのは。知ってのとおり、カルダーラのボスは私だ。ボスの夫ということで多少面倒はあるが、少なくともボスでいるよりはマシなんじゃないか」
 ニヤニヤと笑いながらマウラがいう。それでメイとリンが殺気立つが、レオナルドが首を横に振るのを見てそれもおさまった。
「遠慮しておきます。普通に荷が重いし、カルダーラさんみたい立派な人の隣にこんなちんちくりんが立つのは他の人も許さないでしょうし」
「私が是といえば皆従うが。それにレオンが私の隣に立つなら喜ぶのが何人かいるし」
 もしやカルダーラファミリーの中にもレオナルドに傾倒している者がいるのだろうか。あとで確認しておこうと密かに思う。
「どっちにしろやめておきます。変な諍いはしたくないですから」
「そうか。気が変わったらいつでも連絡してくれ。今日みたいな感じで迎えに行くから」
「その場合、我々が全力で阻止しますよ」
「マジでその首貰い受けるから」
 メイとリンがそう言いながらマウラを睨みつける。それにマウラが鼻で笑って睨み返す。間に火花が散っているのが見えると思っていると、レオナルドがまあまあと姉妹側を向く。
「そんな日は来ないから。先代から仲良くするようにって遺言残ってるんですよね?」
「……否定したいんですが」
「それじゃあ、これからもカルダーラファミリーとは仲良くしていきましょう。カルダーラさんも、よろしくお願いしますね」
「レオンがそう言うならな」
「報酬についてはまた後日でいいですよね」
「ああ。そう取り決めたからな。日時は追って知らせよう。ところで、護衛殿への報酬はどうすればいい?」
「それも僕経由でいいですよ」
「なんだ、直接話させてはくれないか」
「勧誘とかしないってお約束してくれるならいいですけど」
「それは無理だな。護衛殿はなかなか腕が立つし、あの能力は面白い。それに、クラウス殿も同じく面白い能力を持っているようだし、おまけに二人とも腕っぷしも強い。ぜひ二人とも我がファミリーに来てほしい」
 どうやら、あの戦闘の最中でも周りを見るくらいの余裕はあったらしい。メイが忌々しそうにしながらも実力を認めるだけはある。
「待遇についてはできる限り約束する。どうだ?」
「ミズカルダーラ、我々は貴殿の下につくことはできない」
「そうか。まあ断られる気はしていた。どうせレオンと同じく、どこぞのトップなんだろう?」
「カルダーラさん、僕の招待客について詮索も憶測もしないって約束、覚えてますか」
 レオナルドが口を挟む。それを受けて、マウラは肩を竦めた。
「覚えてるさ。悪い悪い。あまりにいい人材だったからな。うちだってお前のところみたいに層を厚くしたいんだよ」
「また友人が減るのは困るから、勧誘は僕の知人以外にしてください」
「わかったって。そう怒るなよ」
 マウラの言葉にレオナルドはため息をつく。
「一応同盟先なんですから、あんまり抗争の種になりそうなことはしないでください」
「平和主義だなあ」
「お嫌いなら同盟破棄を考えてください」
「いやいや、私は好きだよ。今後とも末永くよろしく頼む」
「はあ、わかりました」
 その後いくつか約束をして、その後は解散となった。マウラはすぐにファミリーの者と合流したし、メイとリンも後片付けがあるからと珍しくレオナルドを置いていってしまったので、クラウスとアイコンタクトで頷き合い、レオナルドを連れてひとまず事務所に向かうことにした。


 事務所に着いて早々にレオナルドはライブラでよく着ているラフな格好に着替え、一息ついたようだった。
「今日はありがとうございました」
「君を守れてよかった」
「僕も命があってよかったです。抗争のど真ん中にいるとかは滅多にないんで、流石に今回は死ぬかなって覚悟してたし」
「ところで少年」
「はい」
「君、カルダーラファミリーにもシンパがいるの?」
 訊ねると、レオナルドはくしゃっと顔をしかめる。
「シンパじゃないです。多分」
「じゃあ舎弟?」
「所属違うんで舎弟でもないです」
「でも君がカルダーラファミリー所属になると喜ぶ奴がいるんだろ」
「……ちょっと、慈善活動で助けちゃった人がいるくらいです」
「よそのファミリーにもいるのそういうの」
「今のシャーロン会が穏健派だからって、抗争とかに巻き込まれたら避難してくるって感じの人が結構いるんですよね」
「そうか」
 その内、ヘルサレムズ・ロット内の人類種系マフィア全てと繋がりを持ちそうだなと密かに思うが、口には出さなかった。

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