無礼者

積み木の橋 後

23/05/09 00:19

ただのクレイジークソ野郎に振り回されるレオ君みたいなのを目指そうとしてなんかちょっと違うものになった話が完結しました。
約5年前に書き始めたんで、最終的な着地点を完全に見失ったので、ちょっとフワフワした終わりになりました。

 ザップから一報を受け取り、それを知らせると、ノーリは盛大に舌打ちをした。
「クソッ、バレてたか」
「すまんなあ。レオが人質になってしまったし」
「いや、そっちはいい。というか、知り合いだったのなら昨日の内に聞いておきたかったな。『はああ、ほんと、しくじったな』」
 日本語でこぼした言葉に、エイブラムスはおやと思う。
「しくじったとは、昨日聞いてなかったことか?」
「『それだけじゃなくて、昨日タマヨシと接触してなきゃ向こうに追われてると思わせなかったし、人質なんてことにはならなかっただろうし』」
 変わらず日本語でぼやいていたが、ノーリはため息を一度つくと、立ち上がった。
「ミスターラインヘルツ、ミスタースターフェイズ。まことに申し訳ない。こちらの不手際であなた方の部下を危険にさらしてしまっている」
「いや、仕方ないよ。彼って結構色々巻き込まれるから、今回のこともなるようにしてなったって感じもするし」
「彼が巻き込まれてしまった以上、我々も全力で協力しよう」
「かたじけない。さしあたって、レオナルドさんの居場所がわかるものはありますか」
「携帯を持ってるなら、GPSである程度はわかるが」
 そう言いながら、スティーブンがパソコンの操作をする。
「うん、大丈夫だ。ちゃんと追えてる」
「どの方角に向かっていますか」
「これは……、ゲットーヘイツの方向かな」
「なるほど。では私はそちらに向かうので、方向が変わったらミスターエイブラムスに連絡を」
「いいけ、……え!? エイブラムス氏にですか」
「はい。彼を同行させますので」
「本気ですか」
「俺も一応案内人としてついてきてはいるが、お前さんこの街のことはある程度知ってるって言ってただろう」
 自分がついていく必要があるのかと訊ねると、ノーリは真面目な顔で頷いた。
「タマヨシは完璧主義だ。だから、不測の事態を何よりも嫌う。あいつ仕事って言ってたし、それなら不測の事態を招きまくるあんたを連れてった方があいつも苛ついて出てくる可能性がある。正直連れて歩きたくないが、今は人質も取られてるからな。付き合ってくれ」
「貸しだぞ」
「次日本観光する時に付き合ってやるよ」
「おう。クラウス、お前も来るか?」
 声をかけると、クラウスはぜひと応えてくれた。
「レオのこともあります。ぜひ同行させていただきたい」
「だそうだ。ノーリ、いいよな」
「ええ、お願いします」


 スティーブンからの情報を逐一受けとりつつ、レオナルドの足取りを追うと、ゲットーヘイツまであとワンブロックというところで二人に追いついた。
「レオナルドー!」
 呼びかけると、捕まっていたレオナルドが真っ青になっている顔をこちらに向ける。と同時、レオナルドを捕まえている男、あれが恐らくタマヨシという男だろう、彼の前に看板が落ち、その足が止まった。
「エエエエエエエイブラムスさん!? と、クラウスさん!!」
「チッ、また追っ手か。何度来たって、仕事終わるまでは返さねえぞ、と!」
 タマヨシが指を鳴らすと同時、炎の渦がこちらに向かってくるが、それは目の前に現れた黒い穴の中に吸い込まれてしまった。それを見てタマヨシは顔をしかめる。
「『げえっ、また懲りずに来たか、タツノリ!』」
「『来るってのボケ! こっちはお前の捕獲が任務なんだから』」
「『あのジジイ共にはオレは死んだって言っておけよ! ノリ悪いなー』」
「『ノリの問題じゃないんだよ。大体、お前が施設の爆破とかしなけりゃこんなことには。とにかく、とっとと日本に帰るぞ!』」
「『やーなこった! オレはここに残る! この街はすげー生きやすいからな。あんなクソみたいな国で生きていけるかってんだ!』」
 日本語で罵倒しあっているノーリとタマヨシの様子に、存外仲がいいなと思いつつ、エイブラムスはクラウスに話しかける。
「クラウス、今の内に奪還するぞ」
「はい」
 頷き、クラウスが走り出す。それに気付いてか、タマヨシが指を鳴らし、轟音と共にクラウスの行く手に炎の壁が現れる。だがなぜかそこにクラウスより先に、タイヤが破裂したらしいトラックが突っ込む。
「は!?」
 隣でノーリが驚きの声をあげ、次いでなぜか背後を見る。なんだとエイブラムスもつい振り返ると、エイブラムスの二メートル後ろでトラック数台のタイヤが破裂している上、その中央に異界生物の死骸らしきものが飛散していた。
「おお、なんか知らんが危なかったようだな」
「オーケー、エイブラムス、一緒にあっちに行こう」
 ノーリがなぜかそう言って、エイブラムスの腕を引っ張り、タマヨシのいる方に向かう。なんだと思いつつも、反対する理由はないのでついて行くと、次々と背後や前方から爆発音や破壊音が聞こえてくる。相変わらず騒がしい街だと思っていると、次々と何かの破片や死骸などが降り、エイブラムスの周辺に落ちていく。
「『おわ、なん、なんだそいつ! やめろそいつを近付けるな!』」
 タマヨシが叫び声を上げ、後ろに下がろうとするが数歩下がったところで彼の背後に回り込んだクラウスによって、タマヨシの意識は刈られた。
「クラウスさんありがとうございます!」
 自由になったレオナルドが平伏しそうな勢いでクラウスに礼を言い始めたところで、ノーリがレオナルドに話しかける。
「ご迷惑をおかけしてしまい申し訳ありません。このお礼はいつか必ずお返ししますので」
「助けてもらったんでもう充分です。方法がちょっと物申したい感じでしたけど」
「そこはどうかご容赦を。エイブラムスさんの豪運でこれの調子を崩す必要があったので」
「今のでよかったのか?」
 ただ近付いただけだがと思っていると、ノーリは頷く。
「ああ、助かった。あとはこれを拘束して日本に送るよ」
 ノーリはそう言うと、ポケットから手錠を取り出し、それをタマヨシの両腕にはめた。が、直後、タマヨシの姿が揺らぎ、炎の塊となった。それに反応してノーリが即座に数歩下がると、炎は更に大きくなる。
「おいノーリ、こいつは」
「知らん。いつの間にか新技でも身に着けてやがったか。くそっ」
「それ、中に人いないです!」
「御助言感謝いたします。そういうことなら、吸うに限る!」
 レオナルドの言葉を受け、ノーリが炎に向かって手をかざすと黒い渦が現れ、それが残らず炎を吸い取った。
「レオ、なんで中に何もないって気付いたんだ?」
 離れたところからタマヨシの声が聞こえる。見ると、いつの間にか十数メートル離れたところに移動している。その彼は、レオナルドを訝し気に見ていた。
「ふうん、やっぱりなんかあんだなお前」
「新しい曲芸身に着けやがって」
 ノーリが舌打ちして睨みつけると、タマヨシはにたりと笑みを浮かべる。
「昨日編み出したばっかの新技だぜ。お前にも通じてオレは嬉しいよ」
「しくじればよかったものを。お前がそこまでするほどの仕事なのか?」
「ああ、なかなかでかくて面白い仕事だしな」
 そう言うと、タマヨシがぱちりと指を鳴らし、いくつかの火の玉が周囲に浮かぶ。
「人質は取り返されちまったし、あとは派手にやるわ。悪いな、クライアント!」
 タマヨシが吠えると、火の玉がひとりでに動き出し、ゲットーヘイツの方に向かっていった。
「あ、こら!」
「燃えちまいな!」
 火の玉があちこちに火をつけながら、ゲットーヘイツの方向へ飛んでいく。
「あれはまずいな。クラウス」
 声をかけると、彼は駆け出そうとする。
「エイブラムスさん危ない!」
 レオナルドの叫びと共に、目前に熱を感じた。

 マイキーが叫ぶと同時、火の玉がゲットーヘイツに飛んでいくが、それよりも大きな炎がエイブラムスに迫るのが見えた。
「エイブラムスさん、危ない!」
 叫んで彼のコートを勢いよく引っ張ると、エイブラムスの体が後ろ向きに倒れる。しかしそれで辛うじて炎はエイブラムスの上を通り、彼の背後にあった呪いに直撃するのが見えた。
 そこからは悪夢のような連鎖だった。
 炎は呪いに直撃すると、呪いと炎が混ざりあい、その状態でエイブラムスを中心に飛び散っていく。いくつかは周囲の建物に張り付きそのまま炎上、いくつかは地面などにあたって爆発。爆発したものは周囲にあったものを破壊して破片が散乱。更に爆発が連鎖することもありと、諸々が重なった結果、火の海のようになってしまった。
「う、うわあ」
 思わずレオナルドが声をあげる横で、エイブラムスが頭を撫でながら周囲を見ている。レオナルドのせいで頭を打ったのだ。
「助かったが、もう少し早く言ってほしかったな」
「す、すみません」
「しっかしまあ、酷いもんだな」
 エイブラムスが更に隣を見る。そこではノーリが頭を抱えている。ちなみにマイキーは悪夢の連鎖の最中で姿を消してしまった。なおクラウスは人命救助に向かった。
「あいつぅ」
「どうするんだこれ。ひとまず火を消す方向でいいんだよな?」
 エイブラムスが声をかけるが、ノーリは手を横に振る。
「いや、それはこっちで消火できる。ただ、逃げられたのが痛い」
「引き続き探すか?」
「レオナルドさんを引き続きお借りしても?」
「専属では貸せんと思うなあ」
「……防犯ブザーにするか」
 なんだか不穏な単語が聞こえた。
「防犯ブザー?」
 エイブラムスが聞き返すと、ノーリは日本語で話し始める。何を言っているかわからないが、エイブラムスの顔が渋いものになっているので、いいものではなさそうだ。
「あー、つまり、紐を引っ張ればお前さんが出てくる機械って認識で合ってるか?」
 ノーリがこくりと頷くのが見えた。
「どうでしょう」
 更にノーリがこちらに声をかけてくるが、レオナルドとしては微妙だ。
「い、いやあ、どうでしょう。それ、プライバシー的な問題が発生しません?」
「問題なのは私が二十四時間待機になるくらいで、レオナルドさんのプライバシーは守られますよ」
「いやいや、そこまでしてもらうわけには。あの、もう少しこの街で探すとかはどうです?」
「私の滞在期間がそこまで長く取れないもので。就労ビザってとるのが大変なんですよ」
「しかしいずれにせよ難しいだろ。それにあの協会のことだ、そんな大急ぎってわけでもないだろ」
「まあ、それはこの後本部と確認だな。ところでエイブラムス、あれ、ゲットーヘイツのどこかに被害出てると思うか?」
「見た目少し燃えてるが、中はどうだろうな。レオ、なんか見えんか」
 そう言われ、ゴーグルをかけ少し集中して見てみる。ぱっと見問題なさそうだが、よく見れば区画を囲っている結界らしきものにヒビが入っているのが見えた。
「内部は、無事っぽいっすね。ただ、外壁の結界系が一部壊れてるような」
「レオスに連絡しておくか」
 エイブラムスがどこかに電話をかけようとする中、ノーリは日本語で何やらぶつぶつと言っている。マイキーの動機などについて考察しているのだろうか。
「向こうには伝えておいた。請求は本人にするから、頑張って捕まえてくれ、とさ」
「うちのボスに挨拶に行くよう伝えておく。仕方ない。残りの滞在期間で調べるか。捜索はライブラに協力を依頼しても?」
「それはあっちと交渉だな。ま、俺から口添えはしておこう」
「助かる。さて、消火活動といくか」
 ノーリはそう言うと、手を軽くパンと叩き、周囲を指さしていく。彼が指した箇所に黒い渦が現れ、そこに炎だけが吸い込まれていった。結果、数分もかからず周囲の炎は全て消えてしまった。

 火が全て消えると、ノーリはふうと息をつく。
「おー、流石だな」
 エイブラムスが声をかけると、ノーリはやや疲れを滲ませた表情で軽く手を振る。
「『とんだ労働だよ。マジであいつ次会ったらシメる』」
「お疲れさん。……奴さんの狙いとしてはゲットーヘイツの破壊だと思うか?」
「もしそうなら、あいつはもっと違う手を使う。クライアントと言っていたから、依頼人がいることは間違いない。人質を使ってまでこちらを遠ざけて、かつ派手にやることを謝罪していたから、こっそり何かをやる必要があった。となると、ゲットーヘイツだけが目的だとは限らない」
「可能性が多すぎるな」
「全くだ。ひとまず、さっきも言った通り、滞在期間ギリギリまで残って調べてみるさ」
 そう言うと、ノーリはスマートフォンを取り出してどこかに連絡を始める。それを横目に、エイブラムスはレオナルドに声をかける。
「あのタマヨシって男の痕跡とか追跡できんか?」
「えー、っとぉ」
 レオナルドはゴーグルをかけたまま、きょろきょろと周囲を見るが、表情は険しい。
「難しそうっす。知り合って日が浅いんで、はっきりオーラを覚えてるわけじゃなくて」
「そうか。であれば、クラウスに声をかけた方が早いな。お前さんは見かけたらすぐクラウスに連絡を」
「はい」
「それと、他に何か気になることとかはあるか?」
 訊ねると、レオナルドは少し考えた後に、「あ」と声を上げる。
「最初、ザップさんとツェッドさんが助けようとしてくれたんですけど、その時、マイキーが、血だから燃えるって言ってたんですけど」
「……つまり、あの二人の能力を知ってた可能性があるってことか」
「そうなるんですかね」
「となると、案外こっちも部外者じゃないかもしれんな」
 面倒なことになるかもしれないと、エイブラムスは顔をしかめた。



 路地裏を歩き、タマヨシはとあるところで足を止めた。
「いやー、悪いね。結局派手になっちゃった」
「種は植えたのか?」
 どこからか声が返ってくる。それにタマヨシは頷いた。
「それは勿論。だが、少し不安要素がある」
「というと?」
「どうも向こう側に目のいい奴がいる。そいつがもし見つけてたら、取り除かれてるかもしれない」
「……そうか。後日確認しておこう。君は引き続き、種まきを」
「了解。ミスターシープ」

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